脂肪吸引手術をダイエットの並びに入れて違和感はないですか?

戦略コンサル系ロジカルシンキングとの出会いその3で、これが最後なのですが、やはりウルシステムズ立ち上げ当時に、戦略コンサルの人にレクチャーしてもらいました。

ロジックツリー。「MECEが多段になった構造」ということで、そもそもツリーの定義ってそんなんだっけ? とか思いながら聞いていましたが、例として、痩せる手段のロジックツリーというのを次のように解説してくれました。

いろいろなダイエットの手段はあるが、大きく分けると、「カロリー摂取量を減らす」というのと「カロリー消費量を増やす」の二つに分けれます。これは、MECEに見えますよね。しかし、これでは「脂肪吸引手術」というのが入りません。そこで、「体内の不要蓄積物を除去する」というのを加えた、3項目にするとMECEになるのです。

これを聞いていて、違和感を感じてしまいましたが、皆さんはどうでしょうか。

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※『問題解決プロフェッショナル「思考と技術」』齋藤嘉則著 (ダイヤモンド社 1997年) P.86 より引用

確かに、肥満の本質的な原因である、カロリーの摂取と消費のバランスが悪いというところに手を打つ、最初の二つの施策をまず考えるだろうというのは、そのとおりだと思いました。それ以外に、見た目が痩せれば良いというのが、発想の転換だと言われるとそれもそうかもしれないと思いました。

ですが、同じ並びじゃないだろうという感覚が払拭できません。前の二つと三つ目は別の観点だから、同じ階層で並べてはだめなんじゃないの、と思ったのです。また、脂肪以外で肥満に関係しそうな体内の不要老廃物が何かわからないので、そんな抽象化に何の意味があるのかもわかりません。

多段のMECEでツリーをつくるのなら、もう1階層増やして、大きく「蓄積脂肪の生成抑制」というのと「蓄積脂肪の直接除去」くらいに分けたくなります。また、見た目の話なら、コルセットで締め付けるとか、腹筋を鍛えて締まって見えるようにする、というのもありそうなので、さらに「蓄積脂肪の体積圧縮」とかを並べたいところです。

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※同書 P.87 より引用

これも後から知ったのですが、やはりネタとなる本があって、そこから例や説明をピックアップしていたのでした。「問題解決プロフェッショナル」という本で、非常に実践的でわかりやすくお勧めできる本です。この例について言えば、元の本の文脈を無視して説明したコンサルタントの方が良くなかったと思っています。

元の本は、ブレストからフレームワークを作るライブ作業の記録としてこの例を紹介していました。時間制約のあるライブということを考えると、これだけの整理ができていることで見事だと思います。もともと、コンサルタントの仕事自体が、時間制約の中でベストエフォートの成果で勝負する活動です。

そして、この例には、MECEという範囲にとどまらないテクニックがあるように思えます。フレームワークにするときに、囲みの形状を変えているので観点の違いを意識したうえで、最上位の構造を複雑化させないために3項目にしたと想像します。さらに観点の差を際立たせずシンメトリーで整った分類に見せるために最後の項目を中央に配置したようのも思えます。良い整理に見せるテクニックは奥が深いということです。

これまで数回にわたって、戦略コンサル系ロジカルシンキングの出会いについて書いてきましたが、コンサルティングスキルの教育は大変だというのがよくわかりました。元の本への文脈依存が強いので、その本を読んでいるうちは納得感があっても、そこから例だけ引っ張ってきて解説しても、納得感のある説明にならないからです。自分で納得できないことを人に教えるわけにはいきません。

とはいっても、実際に出てくる成果物を比較すると、当時のSEとコンサルタントでは出てくる資料のレベルには雲泥の差がありました。ここの差を埋めないと、コンサルサービスはできないと思っていましたので、結局、自分で納得できる内容に再構成するしかないと考えて今日に至るというわけです。