エントロピーで連想する煙の輪

日経情報SYSTEMSの巻頭のコラム「ITアーキテクトの視点」を1年前から担当していますが、2011年2月から日経ITProのサイトでも読めるように公開されるようになりました。3月は震災報道のさなかでしたが、「機能は自然と増える あらがえるのは技術者」 が公開されています。

この巻頭コラムは1ページなのでメッセージをひとつに絞って単純化していますが、書ききれなかったことなどがいくつも残っています。本ブログではそうした話題を拾っていきたいと思っています。また、日経ITProで公開される予定のない2011年1月以前の内容を適宜、本ブログにて公開していくつもりです。


今回の話は、エントロピーに関わる話です。エントロピーで連想するものは人によっていろいろだと思います。物理系の人であれば、普通に熱力学の法則として捉えると思いますが、コンピュータの理論系の人であれば、情報量を扱う概念としてのエントロピーを連想されるかもしれません。皆さんは何を連想されるでしょうか。

私はというと、連想するのはたばこの煙の輪です。最近は喫煙場所が減って、見かけることが減りましたが、スモーカーの中には、たばこの煙をはくときに器用に輪の形を作れる人がいます。煙の輪はその形を長くとどめることはありません。風がなくても、煙は空中で拡散し輪郭がぼやけていきます。この煙の拡散が私が持っているエントロピーの基本イメージです。

この煙の拡散には、微視的な説明をつけることができます。煙の実体は小さな粒子が浮遊したもので、空気分子とぶつかるとその位置を変えます。ぶつかった煙の粒子はあらゆる方向に進んでいきます。すべての分子が偶然元の位置に戻るなどということが起こらないかぎり拡散していきます。つまり、エントロピー、つまり乱雑さが増大するほうに進むというわけです。詳しいことは上記コラムに譲りますが、同様の原理によって製品の機能は一方的に増加していくというのが私のイメージです。

もし、万一、たばこの煙の輪がいつまでも消えずに残っているとかいうことがあれば、そこには何らかの超常現象が作用しているとしか思われません。ハリー・ポッターなどのシーンでは、こうした煙が自分の知っている人の顔になったりしますが、そうなるともう魔法の世界です。というわけで、製品の機能を増やすことなく、最初の製品の原型を維持できる人は、魔法でないにしても何らかの強い力をもっているに違いないのです。少なくともあらゆる方向に飛び出そうとするものを、片っ端からあるべき位置に押し戻す果てしない労力を続けるのに匹敵する力が必要なはずです。

…以上の話は、最初の原稿には書いてあったのですが、最終稿になるまでになくなってしまいました。煙のように。