先週、公開した卒論概要フレームワークの記事に「いいね!」を数多くいただき、ニーズが多いことわかりましたので、これから使い方を数回に分けて説明したいと思います。卒論や修論には着手している皆さんも多いと思いますので、そうした方にも確認に使えるように少しずつ書いていきます。
フレームワークとは
本題に入る前にフレームワークについて説明しておきます。これは第Ⅲ世代の論理思考に特徴的な考え方で、コンサルタントのロジカルシンキングが、第Ⅰ第Ⅱ世代と違って、ビジネス現場に受け入れられてきた理由でもあります。フレームワークを使うことで、経営トップの説得という目的に最短で結果が出すことができるのがその理由です。
フレームワークは課題を整理するための情報構造のパターンのことで、様々な目的のものが数多く知られていますし、自分で作っても構いません。フレームワークを組み合わせて使うことで、モレなくダブりない全体構造を素早く整理できると同時に、相手にそれを効果的に提示することができます。
学生の皆さんが卒論や修論で苦しむ理由は、研究自体を行いつつ、文章の書き方や図表の書き方といった細かいことから、論文の全体構成までの、様々なレベルのことを短期間に習得する必要があるからです。フレームワークを使った整理をすることで、卒論・修論の最終形のイメージが明確になり、完成までの見通しが良くなります。
卒論概要フレームワーク
卒論や修論の構造は、複数のフレームワークを組み合わせた複雑なものになります。全体構造から説明を始めると具体的なチェックポイントの説明に到達するまでかなりかかるので、大切なところから部分的に説明を積み上げていきます。なお、ここで対象としているのは工学系の研究についての論文だということは、あらかじめ頭の隅に置いておいて下さい。
また、卒論「概要」のフレームワークとしています。概要はいわゆる論文のアブストラクトですが、実際には学校によって求められる長さも内容も変わります。ここでは、論文全体の要旨をまとめた、300~400字程度で記述する論文の概要を想定しています。つまり、この文字数で何を書けば、論文の概要が理解できる記述になるのかという話になります。
さて、前置きが長くなりましたが、ここから本題に入ります。
最初に確認すべきこと
卒論・修論を書き進めるにあたって、最初に確認しておきたいことは、今どこにいて、どんな主張ができるのかということです。どこにいるのかというのは、研究プロセス上のどこかという意味です。
工学系の研究の標準的な活動は、仮説検証プロセスに則ります。このプロセスは、コンサルタントが活動を進めるのに用いる主要なフレームワークのひとつです。
- 状況の観察・分析
- 仮説の立案
- 仮説の検証
研究成果を主張するには、仮説検証の結果が出てから論文を書くべきですが、卒論や修論は、指導を担当されている博士課程の学生や准教授の先生方のような一人前の研究者の論文と比較して大きな違いがあります。それは、研究の結果が出ていようが、出ていまいが提出しなければいけないという点です。本人はもちろん、先生も、学校も、ご両親も、みんな予定通り卒業してほしいわけで、研究の成果が出ているかどうか以上にそちらが大切です。
GROWフレームワーク
下に卒論・修論の概要を整理するためのフレームワークの全体像を示します。Graduation Research Overview Writerの頭文字をとり、GROWフレームワークと名付けています。一番上にあるオレンジの枠が論文の主張したいこと。その下の黄色と緑の枠が主張(結論)を支える、背景と根拠になります。右側の根拠内に矢羽矢印が3つ並んでいます。
今回の話に関わるのは、一番上の主張(結論)のところと3つの矢羽矢印に関わります。矢羽は、原因特定、解決手段、検証結果の3項目に別れていますが、これが仮説検証プロセスの3つの項目に該当します。概念的に近い話であっても、見出しの付け方次第で作業効率に大きな差が出るので、卒論概要というテーマに合わせて書き換えています。
工学系の研究は、基本的には、社会的な課題を技術や仕組みによって解決することを目的にしています。それを行うためには、まず、状況を分析して何が原因なのかを特定し、次に仮説としてどのような解決手段を取ればよいのかを考え、それが実際に課題を解決できるのかを検証するという流れになります。
研究結果を発表するのであれば、本来は最後の結論までわかってから論文を書くべきですが、卒論・修論では、この途中で論文を書く可能性が高くなります。特に4年生からの研究は期間が短いため、最後まで到達できないことは珍しくありませんし、修士への進学を決めている場合には、仮説立案以降を進学後に設定することもあるでしょう。
卒論や修論で主張できることは、提出時までに判明していることまでです。原因の仮説が立ったのであればそこまでを主張、解決策が思いついたのであればそこまでを主張、検証までできたのであればそこまでを主張する、ということになります。
研究が卒業時点で、当初の計画していたところまで進められるかどうか、確実なところはわからないと思いますが、一番大きな構造として、まずは、ぼんやりとでもどこまで行けて、何が言えそうなのかを意識しておきましょう。