現在、ツイッターなどで、日本の学生の読解力が下がっているのが課題であるという議論が盛んに行われています。しかし、「読解力」という言葉の意味が様々に捉えられていることから議論が噛み合っていません。これを整理するための枠組みとして、読解力の4象限モデルを提案します。
このモデルは、図に示すように2軸によって、4象限を定義するものです。一つの軸は、読解の対象を、内容か構造かで分け、もう一つの軸ば、読解レベルを形式か意味かで分けています。それぞれ以下の観点となります。
【内容×形式】文章を言語として読めるか?
【内容×意味】文章の意味を理解できるか?
【構造×形式】論理的な関係を把握できるか?
【構造×意味】論理の妥当性を判断できるか?
続いて、本題である読解力についての現在の議論を整理します。
現在、盛り上がっている読解力の議論の直接のきっかけは、12月4日に報道された、PISAの調査結果で日本の学生の読解力が下がっているというニュースです。
PISAとは、OECD(経済協力開発機構)で実施された学習到達度調査のことで、日本および他の国と地域の学生(15歳)の学力を調査しています。その結果、日本の学生の読解力のランキングが3年前と比較して下がったという話です。
この報道に合わせて、テレビ番組で、国立情報学研究所の新井先生が推進されているRST(リーディングスキルテスト)を芸能人にさせる企画なども行われました。新井先生は、現在の学生の多くが教科書を理解できる読解力を持っていないという問題意識を提示されているのですが、その話との関連性から読解力の低下を検証しようとしたものです。
そしてこれらをきっかけにして、ツイッターなどで読解力の低下の議論が盛んに行われています。ツイッターを「読解力」というキーワードで検索すると、数分で数ツイートという頻度でツイートがされています。しばしば見られる議論は、自分のツイートの意図が正しく伝えられないことについて、読む人ぶ読解力がないというツイートを返しながら、読解力の低下のニュースを参照するものです。
これらはそれぞれ読解力を異なる意味で使っています。
(1) PISAが測っている読解力は、明確に記述されている主張の構造を把握する力です。
(2) リーディングスキルテストで測っている読解力は、明確に記述されている事実を正しく理解する力です。
(3) そして、ツイッターで多くの人が言及している読解力は、明確に記述されてない作者の意図を推察する力です。
これらに対して、4象限モデルを適用すると、 (1)は「構造×形式」に、(2)は「内容×意味」の象限に該当します。(3)が該当する象限はありません。
(3)のような、明確に意図が書かれていない文章から、作者の意図を想像する力の獲得は、私も義務教育で受けた国語の授業ではとても重視されていたように思います。こうした読解力は、文学作品の楽しみ方の一つとしては意義があると思いますが、コミュニケーションの道具として言語を使う場面で前提にすると、解釈が複数発生してトラブルの元になります。
140字程度で、誰にでも明確に意図が伝わる文章を書くにはかなりの作文力が必要です。断片情報から意図を正確に捉えてくれるような読解力を持つことを期待してツイートするのは、やめたほうがよいのではないでしょうか。
なお、この読解力の4象限モデルは、論理的な文書作成スキルを評価するために考案した、下図に示す文書品質の4象限のモデルを応用したものです。このモデルについては新年どこかで説明します。