新年早々少々マニアックな論理思考ネタをひとつ。
競技ディベート経験者や研究職の人たちの中には、三角ロジックこそが論理思考のグローバルスタンダードで、戦略コンサルタント由来のロジカルシンキングは亜流と主張する人がときどきいます。この三角ロジックはトゥールミンモデルに基づくとされていて、実際に構成要素についてはそのとおりなのですが、三角形の配置は日本固有のものらしいということはあまり知られていません。
訳あって原著にあたったので、起源あたりをまとめておきます。下に示しているのがいわゆる三角ロジックです。


(『ディベートの方法―討論・論争のルールと技術』フィリップス・R.ビドル (著), 松本 道弘 (訳), 産業能率短期大学出版部, 1978年, P.65)
競技ディベートにおける論理は、トゥールミンの提案した議論モデルが基本とされているようです。上述の松本道弘氏に訳出された解説書にも論証のためのモデルとして紹介されています。しかし、ここでは三角形の配置はされていません。
トゥールミンモデルについての原著である『The Uses of Augument』は、最近(2011年)になって訳出されましたが、以下が該当箇所になります。6要素(CDWQRB)でのモデルは上述の競技ディベートの解説書で示されているものと同じです。

(『議論の技法』 スティーヴン・トゥールミン (著), 戸田山 和久 (翻訳), 福澤 一吉 (翻訳), 東京図書, 2011年, P. 157)
この前に、3要素(CDW)のシンプルなモデルが示されていて、こちらは三角ロジックと構成要素は同じですが、配置は異なっています。

(『議論の技法』 スティーヴン・トゥールミン (著), 戸田山 和久 (翻訳), 福澤 一吉 (翻訳), 東京図書, 2011年, P.147)
試しに「claim data warrant」で図を検索してみると、2018年1月時点では原著の配置が使われているものが圧倒的に多く、三角形の配置のものはほとんど見当たりません。下の方に一つありますがこちらは日本語のサイトです。

というわけで、三角ロジックにおいて構成要素については、トゥールミンのモデルに基づいていて、論証の文脈ではグローバルといえそうですが、三角形の形状については、日本ローカルにとどまっているといえます。
個人的には、主張を上に配置するのは悪くないアイデアだと思いますので、日本発でグローバルに展開する可能性もアリかなとは思っています。